中通りから会津へ
福島県を縦に三つに分けると太平洋側が浜通り、真ん中が中通り、山を越えた新潟側が会津となっている。
ここからは中通りの郡山から、会津方面へと向かう電車の記録だ。
脚が燃える磐越西線
会津若松まで行く磐越西線は郡山を3分遅れで発車した。
運良くボックス席に相席で座れたので、また窓の外の景色を楽しもうと思ったのだが、外はすでに日が暮れていて、景色もはっきりとは見えなくなっていた。
たまに沿線を通る車もヘッドライトが眩しく見えるだけだ。
うたた寝
20分ほどうたた寝してしまい、起きたらそこは猪苗代だった。
以前から思っていたことではあるが、磐越西線は暑い。特に太ももとふくらはぎの裏だ。
それに加えて椅子があまり新しくはないようでふかふかしていて、体重をかけると沈むこむ。
そしてさらに、山の中を走るので心地よく一定の間隔で揺れる。
言い訳がましいかもしれないが、磐越西線は寝るにはこれ以上ない条件が整っている。
もう外は真っ暗で窓も曇ってしまっているので外の景色は全く見えなくなっている。
窓の水滴を手で拭って、窓の外に目を凝らして見ると、電車の光に照らされて近くの地面の様子は見ることができる。
そこには白河あたりの雪とは比べ物にならない量の雪が積もっていた。
中通りと会津ではこれだけ風土が違う。
以前祖母が言っていたが、白河と会津は人も少し違うらしい。
以前は白河に近い泉崎に住んでいて、今は会津に住んでいる祖母が言うから間違いないと思う。
一年のうちの半分に近い時期を占める東北の冬。
その数ヶ月の過ごし方が変われば住む人の考え方の一つや二つは変わって当然だろう。
こんなことを考えているうちに、電車はもうすぐ会津若松に到着するらしい。
憧れのカップルを見た
また30分程乗り換え時間がある。黒磯のそれとは比べ物にならない寒さが待っているに違いない。
しかしここでも、その寒さを待ち望んでいる自分がいる。
会津若松では一旦駅の外に出る時間があった。若松の駅前は栄えている。戊辰150年や大河ドラマ「八重の桜」に関する広告が賑やかだった。
少し早めに駅に戻ると既に電車が入っていた。ここから喜多方までは座れる。
人もだいぶ少なくなり、ここでもはじめに座った4人掛けのボックス席を家族連れの方に譲ったが、横並びの席ではゆうゆう座ることができた。
会津若松を出発した電車では、自分の目の前に若いカップルが座っていた。
女性の方が旅雑誌を持っていた。旅行好きカップルのようだ。
その雑誌はただの旅雑誌ではなかった。『JR私鉄全線乗りつぶし地図帳』という本で、調べてみると自分が乗った電車の区間を塗りつぶしていくというものだった。
元から趣味が合うのか、片方がパートナーの旅行好きについて行ってるうちにその魅力に気づいたのかわからない。
ただ、目の前の2人は雑誌を眺めながらとても楽しそうにしていた。
「ここからはまだ行ったことないね」
「じゃあ明日行ってみよう」
なんて会話が聞こえてくる。
彼氏(彼女)の趣味に付き合わされているという感じは微塵もない、心から2人の趣味を楽しんでいる。
何人か人がいる車両内で、遮るものは何もないはずなのに完全に2人の空間が出来上がっていた。率直に羨ましいと思う。
こういう関係に心から憧れる。片方が心から楽しいことをしていれば相手も心から楽しんでいる。こんなに素晴らしい関係はない。
一緒にいるだけで楽しい、最高だろう。自分もそんな人と出会えたらいいなと思う。また、そうなれるようにしていきたいと思う。
最後の最後でも心温まる瞬間に
会津若松から喜多方までは二駅なので乗車時間は短かった。
喜多方駅に着いて改札をでると、帰省してきたような格好の若い女性がいた。
大学生くらいか。タイミング的に同じ電車に乗っていたようだ。駅舎の外には母親らしき人が彼女を待っていた。
「遅かったから心配したんだよ」
電車は定刻通り到着したので遅いことはないと思うが、それでも遅いと感じるほど娘の帰りを待ち望んでいたのだろうか。
母親はとても嬉しそうで、娘は少し恥ずかしそうにも見えるが、それでもやはり嬉しそう。
夜の雪国の人気のない駅前、親娘のおかげで、心がこたつの中のように暖かくなった。家族の温かさ。長旅の最後に良い光景を見れた。
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